キルヒホッフの法則

キルヒホッフの法則 ー回路理論の入り口ー

下準備もできたことだし、ぼちぼち理論に行ってみよう。物理の理論は、なんとかの法則と呼ばれることが多い。電気関係だと、オーム死刑執行の法則とかだ。いや、このネタは危なすぎるから、そろそろ止めとかんと。

しかし、今回ご紹介するのは、そーゆー文系の人でも知ってるユルい法則じゃあないんだな。そう、キルヒホッフの法則だっ。キルホヒッヒではないし、キルヒホッホでもない。ああもう、なんだかどれが正しいんだか、わからなくなってきた。

で、そのキルヒホッフの法則には、2種類ある。電流に関する法則と、電圧に関する法則だ。まず、電流に関するキルヒホッフの法則を説明しよう。

キルヒホッフの電流則は、回路の中の任意の節点に流れこむ電流に関する。数式で書くとこうなる
$$  \sum_{i=1}^{n}{I_i = 0} \ (ただし、I_i:各枝電流、n:枝本数) $$
簡単でしょ。言葉で言うと、こうなる:
ある節点に接続されているすべての枝から流れこむ各電流の総和はゼロになる

図で書くと、下図のとおり。ここでは4つの枝から流れこむ電流で見ている。なお、この図には枝が何なのか書いていないが、枝が何であろうと気にしなくていい。

キルヒホッフの電流則
キルヒホッフの電流則

物理の法則は、ほぼ全部が数式で記述される。これは、数式で書くほうが簡潔でわかりやすいからだ。数学が嫌いな人には気の毒だが、数学の言葉である数式は、日常言語(日本語とか英語とか)よりも、物理現象を表すのに向いている。っていうか、物理現象=自然の法則を表すために、数学が発達したという面もあるくらいだ。

ゆえに、うーん、「ゆえに」とか書くとかっこいいことを言ってる気がするなー、このブログでも平然と数式を使うことにしよう。数式を見ると、ジンマシンが出る人も心配ない。そのジンマシンは、命に別状ない。

そこで、話を戻して、キルヒホッフの電流則の意味を考えてみよう。回路の中の節点は、枝(=部品)と枝が接続されている点であることを思い出してほしい。節点はただの点で、大きさはない。物理的に、何もない。一方、電流は電荷の流れだから、もし、この節点に流れ込む電流を足しあわせて、ゼロでない値になったら、この点に電荷が貯まることになる。電荷が貯まっている状態は静電気だが、節点には何もないんだから、静電気を貯めようにも貯めようがない。貯めようがないんだから、この節点に流れ込む電流を足し合わせたらゼロでないといけない。

ここまでの説明で、んーと思う人もあるだろう。流れこむ電流ばっかりで、流れだす電流の話をしてないじゃん。これは、電流はプラスにもマイナスにもなるからだ。電流というのは、もともと向きがある。ふつー、学校で教えるときには電流はプラスからマイナスに流れるものだと教えるだろう。正しくは「プラスからマイナスに流れる向き」を「電流の正の向き」とすることが多い、ということだ。

電流の値としては、正の向きに電流が流れるならば電流の値はプラス、正の向きと逆向きに電流が流れるならば電流の値はマイナスになる。実際の回路では、電流はプラスばかりでなく、マイナスも多いし、交流電流はしょっちゅうプラスになったりマイナスになったりする。どちら向きを電流の正の向きにするかは、回路設計者が自分で好きな方を選べば良い。

というわけで、上の図の\(I_1\)から\(I_4\)の中には、プラスのものもマイナスのものもある。全部、足し合わせればゼロになる。電流の向きをすべて、流れだす向きを正としても同じことになる。ただし、流れだす向きを正とする枝と、流れこむ向きを正とする枝を混ぜると、プラスになったりマイナスになったりややこしくなるから、全部同じ向きに揃えて置いたほうが、間違えなくてすむ。手で設計計算する時は、統一して扱うほうが良い(んだが、そうならない時もある)。

ここまでが、キルヒホッフの電流の法則で、もうひとつ、電圧に関するキルヒホッフの法則がある。

$$  \sum_{i=1}^{n}{V_i = 0} \ (ただし、V_i:ループを構成する各枝電圧、n:枝本数) $$
回路中の任意のループについて、ループ内の枝の電圧の総和はゼロになる

キルヒホッフの電圧則
キルヒホッフの電圧則

電圧則の場合は、ループと枝と両方でてくるので、ちょっとめんどくさく思える。何を隠そう、筆者もふだん回路の設計計算をするときは、電流則ばかり使っている。それはそれとして、電圧則の物理的な意味も、電流則と同様である。

回路中のループには枝しかない。枝の他にあるのは、配線に相当するものだが、理論上は、この配線には抵抗も何もない。もし、このループの中の枝の電圧を足しあわせていって、結果がゼロでなかったら、この電圧は配線にかかることになる。しかし、配線には抵抗も何もないのだから、もし電圧がかかったら無限に大きな電流が流れていなければいけない。そういうことは起こらないので、枝の電圧を足し合わせれば、かならずゼロになる。

電圧にもやはり向きがある。電流則の場合は、全部流れこむ向きとか全部流れだす向きとかに統一しておかないと、ごちゃらかするが、電圧則の場合は、ループの中の枝をたどる向きと電圧の向きを揃える必要がある。上の図では、ループを赤い赤い真っ赤っ赤の線で示し、ループの向きを赤い矢印で示しているが、各電圧の向きもループの向きに合わせている。ちなみに、電圧の向きを矢印で示すときは、矢印の頭のほうがおおむねプラスな感じになることが多い。

まあ、実際の回路設計では、電流と同様に、回路設計者がてきとーに向きを決めて、この枝の電圧はこっち向きを正としてやって、値がプラスになったり、マイナスになったりする。

なお、枝は色々な部品で構成されるが、上の図でもそうなっているように、電池のような電圧源が枝の場合もある。電圧源は、他の枝と少し違って、枝に流れる電流にかかわらず、枝の電圧が常に一定の電圧に決まっている。

理論は、とりあえずキルヒホッフの法則と、あと少々で足りる。その少々の中で、まだ詳しく説明してないオームの法則に触れておいた方が良さそうだ。ホットな話題だし、いや違うって。


田井裕通